沖さんコラム

取材記事


起業物語から学ぶ泥臭い営業力~『一杯のカフェの力を信じますか?-苦楽しいカフェ開業物語』佐藤裕久著

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●起業本を手に取るのは、起業に関心の強いサラリーマン


 東京の人間にはあまり馴染みは無いかもしれないが、東京駅の向かいにあるマルビルの裏手辺りに「カフェ・ガープ」というレストランがある。このレストランの発祥は大阪の南船場という街からだ。本書は大阪から小さなレストランとして開店し、そしてそのレストランによって街の雰囲気を変えたという伝説のレストラン経営者・佐藤裕久氏の起業ストーリーになっている。


 このように小さなお店から始めていき、その後全国区に店舗を増やした経営者の起業ストーリーの本は数多く出版されている。人材派遣のビジネスとして成功した“フルキャスト”の平野岳史氏が書いた『満点の星』や、焼肉レストラン“牛角”を成功させた西山知義氏の『想い』、そしてタリーズコーヒーを日本に広めた松田公太氏の『すべては一杯のコーヒーから』のような本だ。これらの起業本のストーリーは基本的には同じである。経営者は設立当初から「こんな店を作りたい」というビジョンがあり、そして最初は苦戦し「もう駄目かも」という時期が来る。そして突然、ふっと成功の階段を上がってゆくというものだ。言わばジャパニーズ・ドリームのようなストーリーが本の中で展開される。


 これらの本を手に取る人は元来「起業」に興味がある人だ。人間は何かしらの方法でサラリーを得て、飯を食わなければならないと定義すると、そのサラリーの得方は、就職してサラリーマンになるか、起業するかの2つになる。「独立起業は絶対にしない」と固く決意している保守的なサラリーマンも世の中にいる。彼らの多くは上記のような起業本を手に取ることは少ないだろう。実際に関心はあっても独立起業するサラリーマンは少ないのだが、起業に関心の無いサラリーマンにとっても「起業本」はビジネスをするうえで役に立つということを知っていただきたくて今回はこの本を紹介する。


●マーケティングの仕事≒カネを生む仕事


 このコラムはマーケティングのコラムである。しかし上記のような本はマーケティングの本かと言えば、それは違うだろう。あくまでも「起業物語」に過ぎないし、世の中にあるベンチャー企業の多くは失敗している。その中で、一握りの成功者の物語を相対化して他の経営や、マーケティングに当てはめるのは危険な営みかもしれない。


 ビジネス書で記述されている「マーケティングの定義」で最も多い定義は「売れる仕組み作り」というものだ。ではなぜ「売れる仕組み作り」がビジネスには必要なのだろう。それは、ビジネスとして巧い仕組みを構築することができれば経営者として楽だからである。ラクというのは言いすぎならば、効果的な営業ができ、効率的に企業が回ってゆくからである。


 マーケティングの仕事は一義的にはカネは生まない。いきなり良い製品を作れば売れる筈だと「プロダクトアウト」の考えで商品開発するより、消費者の声、つまりはニーズに合った製品を開発する「マーケットイン」で商品開発をする。時にはシーズを見つけ、効率的な流通経路を組み立てるというような仕事をする。それがマーケティングなのだが、結果として「仕組み」が作られれば良いが、作る過程においてカネは生み出さない。


 ここで大切なことは即効性のあるマーケティング活動は難しいと言うことだ。


●足で稼ぐ売れる仕組み作り


 どんなビジネスマンでも、効率的な仕事がしたいと考える。作戦を練って無駄な努力はしたくないと考えるのは、「苦痛から逃れたい」とする人間の性だ。しかしこの気持ちが強すぎるあまり、最も大切で“効果的”な仕事を忘れてしまう。これは所謂“机上の空論”というもので、「あーでもない、こーでもない」と悩んだ挙句、結局何の行動もしないまま終えてしまい、ビジネスのタイミングを逃すというのはよくあることだ。
私が言いたいのは下手に戦略をオフィスで練るより、足で行動した方が効率的だということである。


 例に漏れず佐藤氏のビジネスにも経営の“死の谷”が訪れる。カネが無いのだからそうするより仕方ないのだが、彼の素晴らしいのはフットワークが軽いことだ。


 そして、狙いをつけて一本に絞ったら、あとは値段交渉あるのみ。一円でも安くなるなら、いくらでも頭を下げた。ひたすら拝み倒し、相手が「しゃーないな」と言うまで決して引き下がらなかった。
こういうところで見栄を張っても何の得にもならない。それが商いの基本だと、子供のころから肌で教えられていたので、頭を下げることに苦はなかった。
(本書98ページより抜粋)


 ここから1円でも値切る姿勢を見習えというのではなく、自分の足で営業する方が効率的だということを学んで頂きたい。佐藤氏はこうした開店準備の期間だけでなく、開業してからも店に因縁をつけるイヤな客にも1人で会いに行ったり、新しく店舗を構える立地で不動産屋から無理だと言われているところにも足を運んでお願いに行く。こうしたフットワークの軽さがビジネスには不可欠である。


 「今日の自分ら、見てみい。店のレイアウトがどうこう、原価率がどうこう、メニューがどうこう、机上のことばかり言っているやんけ。全部、自分らの段取りや都合で、ただ店を回すことばっかり考えてからに。そんな店なんか作ったって意味ないんじゃ」
 (本書234ページより抜粋)


 起業のビジネスとは、大企業のビジネスとは違って泥臭く、カッコ悪いことがいっぱいだ。マーケティングの仕事とは、一般には“カッコ良い仕事”の部類に入るだろう。市場を分析し、消費者のシーズを分析し、売れる商品を企画することはカッコ良いかもしれない。しかしそのカッコ良い仕事にも、泥臭く足で稼ぐ営業を決して忘れてはならない。机上の空論で導かれたカッコ良い資料より、足で稼いだ人間の信頼ほど効率的な仕組み作りは無いのである。「起業本」を読んで泥臭い営業の大切さを思い出して頂きたい。


 「日々何軒もの飲食店を回っていて、この世界に精通している彼が、僕の思いに共感し、将来的な店の発展に期待して協力してくれたことは、大きな自信となった。どの世界でも言えることだろうが、結局のところ、人を動かし、力を与えてくれるのは、熱意や信念というものなのだと、改めて思った出来事だった。」
 (本書103ページより抜粋)



【オススメ度(辛口)】
1杯のカフェの力を信じますか?  ★★★★




【関連サイト】 
沖 広一郎 ブログ
アールモード

掲載日:2007/02/26