沖さんコラム

取材記事


女性はホンダのS2000に乗りたくない?~『あっ、買っちゃった。』松本朋子著

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●男性客の気持ちしか分からない男性社員


 誰が何と言おうと全てのジャンルで商売のターゲットは女性である。家庭における購買の最終決定権が嫁さんにあるというのは言わずもがなとして、例え独身貴族の男性であっても「女性にモテたい」「女性に良く見られたい」という心理が消費者には働いている。つまり女性が自分のモノであれ、他人のモノであれ「あっ、良いわね」と女性に思われること、この感情を制するものがマーケットを制すると考えて間違い無い。

 
 男性と女性とでは、商品やサービスを購入する際に「コレ良いな」と思う要素に大きな違いがあるだろうか。その点において、本書は男女の購買行動には全く違う視点があるという前提に立っており、その視点を浮き彫りにすることで、優れたマーケティング活動ができるようになるということが記述されたものだ。


 マーケティング部だけに限ったことではないが、日本の企業で働く社員は圧倒的に男性が多い。マーケティングを行う部署は大抵企業の中枢に位置しているので、その部署で働く人間はまず大抵“正社員”だ。アルバイトや契約社員が企業のマーケティングを担当することは普通ありえないので、正社員がその事業を行うのだが、この正社員は圧倒的に男性の方が多い。財布の紐を握っているのが女性であり、女性の心理が分かるものこそマーケットを制すると分かっていても、そのマーケティング活動を行うのは男性という矛盾が企業には存在する。


 そこで男性の気持ちしか分からない男性社員マーケッターが陥ってしまう間違いとはどんなことだろう。


1.差別化、差別化と考えるうちに陥る、機能差別化への偏り
2.女性だけでなくヒトが理性的に買い物をするかのような錯覚を持ってしまうこと。
3.顧客である女性をわかったつもりにさせられているという実態
 (本書23ページより抜粋)


この中で特に「1」の指摘で、苦い思いをする男性マーケッターは多いのではないだろうか。


●ホンダのステップワゴンと、S2000の違い


 数年前のミニバンブームほどでは無いが、今でもミニバンは国内で良く売れている。車の形状として「ミニバン」というものがどのようなものか分からない人に説明すると、7~8人乗ることができる“ずんぐりむっくり”の形をした自動車のことだ。今でもホンダはオデッセイ、ステップワゴン、モビリオと売れるミニバンを抱えている。かつてホンダはF1で世界をリードし、若者向けのスポーツカーというイメージがあったが、今やホンダは「ミニバン会社になり下がった」と揶揄される。この「揶揄」しているのは男性の車ファンだ。


 多くの車ファンはこのミニバンが嫌いだ。彼らの主張は決まっていて「そんなにたくさん車に乗ることなんてないじゃないか」というものだ。事実、国内で走る自動車の平均乗車人数は1.3~1.4人というデータがあるし、何より少子化が加速するに伴い、家族全員でドライブに出たとしても7,8人がシートに埋まることはほとんどありえない。だから「ミニバンを買う人はバカだ」と、眉をひそめる。


 そんな陰口はお構いなしでミニバンは売れている。一家の財布を握るのは主婦であり、自動車の購入に至っては妻の一声が最大であり唯一の決定権である家庭も多く存在する。たとえ既婚者でなくても、女性にどんな車が好きか尋ねてみると良い。その中の回答で多くの女性から聞かれるのがステップワゴンなのである。


 ホンダが50周年記念として作ったオープンの2シータースポーツカー「S2000」が良いという女性はまちがってもいない。車ファンが絶賛するS2000を良しとせず、なぜ彼女たちは無意味に椅子がたくさんあるミニバンが良いと言うのだろうか。


子供と一緒に○○することは女性を幸福にします。
(本書117ページより抜粋)


さらに、「みんなと一緒」は女性がとても幸福に感じるものです。
(本書124ページより抜粋)


気のおけない仲間と一緒に過ごす楽しいひととき。オシャレな演出があり、その中に自分がいることは、ものすごく快感なのです。
(本書126ページより抜粋)
  


 ただ単純にこれだけのことで、ミニバンは「なんか、みんなでワイワイ旅行とかできて楽しそう」に女性は感じる。実際に年に何回みんなで旅行するのかなんて女性消費者は決して考えない。この女性の心理に対してクリエイティブディレクターの佐藤可士和がステップワゴンにつけた「こどもといっしょにどこいこう」のコピーは家族回帰と子供を愛する妻の心にガンガンに響いたのである。


●これからはCSではなく、CH


 本書の主張はCH(カスタマー・ハピネス)という考えだ。マーケティングにおいてCS(CUSTOMER SATISFACTION・顧客満足)は消費者の購入後の感情コントロールに重きをおいた概念で、“売りっぱなし”にせず、アフターサービスや、「そもそもクレームの起こらない製品、サービス作りをしよう」という考えだと捉えて差し支えないだろう。


 著者はCHを『購入時における「期待による幸福」と使用時における「浸かる幸福」の2種類の幸福にほって構成される』と指摘しているが、つまりは顧客の満足度の測る時間軸を伸ばしてマーケティングに活かそうというものだ。


 著者の主張の元手は消費者のレシートの分析から導かれたもので、決して「なんとなくそう思うんだけれど…」という漠然としたものではない。しかしだからと言って、CHの考えを取り入れれば抜本的に商品開発が好転するというものでもない。CSはそもそもマーケティングの1部分に過ぎず、著者が指摘している考えはマーケティング全体のものだ。何も際立って新しい考えでもない。むしろ男性と女性の消費者行動の違いを深く掘り下げた方が良かったのではないだろうか。



【オススメ度(辛口)】
あっ、買っちゃった。 一瞬でお客に反応させる快感マーケティング  ★★★☆☆




次回コラム予告
「J.D.パワー 顧客満足のすべて」



【関連サイト】 
沖 広一郎 ブログ
アールモード

掲載日:2007/01/08