沖さんコラム

取材記事


本のカバーや帯、そして横文字表記の妥当性~『花を売らない花売り娘の物語』権八成樹著

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●モノを買う時の消費者の心


 タイトルに掲げられている「花を売らない花売り娘」の話は、商売の本質はどこにあるのかという例えだ。一瞬このフレーズを読むと、花屋さんであるにも関わらず、ケーキやお魚を売るカリスマ営業マンの“花売り娘”がいて、その女の子のストーリーが書かれているのかと思う。しかしこのタイトルはあくまでも誇張した例示であって、本書で描かれている“花売り娘”は実際には“Flower”(花)を売っている。


 本書で伝えたいメッセージは、消費者が花を買いに来る時に、その裏に隠されている欲求は何かを見極めよということだ。その欲求を充足させるソフトと、本質的なCSの追及を伝えているに過ぎない。


 まずは購買代理人として顧客を知ることです。
 そのうえで顧客の願望や課題に合った解決策、場合によっては客が思ってもいないような素晴らしい解決策を用意し、顧(個)客価値として提供することです。そしてお客を感動させる touching customer’s heartこと、それがソリューション・オファリングです。
 (本書152ページより抜粋)


●光文社ペーパーバックスを買うビジネスマンの本質


 本書は光文社の“ペーパーバックス”のシリーズから上梓されており、このシリーズの本を書店で多く見かけるようになった。特に駅中の書店などでは手軽に購入することのできるビジネス書として人気があるようだ。このペーバーバックスの差別化は以下の通り。


①ジャケットや帯を排除
②使用する紙ができる限り再生紙
③本文は全て横書き
④英語などの外来語を横書きそのままに取り入れる形態


 ①と②のように本の過剰包装を排除しているので、このシリーズの本は安価だ。今回のこの本も税込み1,000円という価格であり、多くのハードカバーの本が1,500円以上という中で1,000円という価格は約35%の割引に等しい。実際に海外の本はほとんどこの体裁になっていて、カバーや帯という“ハード”は「本の内容を会得したい」という消費者の欲求とは全く関係の無いものだ。海外の旅人の小説を触らせてもらうとその“軽さ”にビックリする。わら半紙のような再生紙を利用していることで、この軽さが実現しているのだが、重たい鞄を持つビジネスマンにとって本が軽いという魅力は大きいだろう。


 本書の体裁も“花売り娘”と同じ理屈だ。本を買う消費者(このシリーズはビジネスマンが多いだろう)の本質的な欲求は、外見では無く中身であり、その内容を安価に手にいれるために“安さ”と“軽さ”はプラスに働くという点から来ている。安さと軽さだけならば文庫本の本で十分かもしれないが、文庫には無い価値がこの本には内在している。


 もしカバーや帯という過剰包装を無駄だと思っているのが消費者の本質的な欲求だとするならば、本を購入する際に書店の“カバー”は絶対に不要なハズだ。しかしこの本を買おうが、通常のハードカバーを買おうが、書店のカバーを求める消費者は、この本でも同様に書店カバーを求める。この本を求めるビジネスマンの本質はカバーや帯が無いという“体裁”ではなく、“低価格”と文庫本よりハードカバーのサイズに近い“形体”である。


 このシリーズの本のポジショニングは、雑誌とハードカバー本の中間、そして新品の本と古本の中間に位置している。通勤などの手軽に何かを読みたいという願望がある際に、「雑誌よりはキチンとした本を読みたいけれど、ハードカバーの本を買うのはちょっと高いかなというビジネスマン」が消費者像として想定される。


●古本市場のハードの付加価値


 本のカバーや、帯が読書家にとって大切な要素であることは、オークションや古本屋の市場価格から見ることができる。実際に古本として売買をする際に、カバーや帯が無傷であるかどうかは価格に大きな影響がある。「本の知識を会得したい」という願望のみが本を買う人の目的ならば、よほど大きな傷みで無い限りカバーや帯の汚れ具合はどうでも良いことのはずだ。


 もちろん文庫は読みにくいからもう少し大きな本が良いという読者もいるだろうし、ただなんとなく面白そうだから手に取って買ってみたという消費者もいるだろう。しかし本の売り手から消費者の本質的な目的を考えた場合、カバーや帯という一見無駄なものであっても、この厚化粧に価値を見出す消費者はたくさんいる。


●ペーパーバックスの横文字表記


 このシリーズの本の特徴として横書きでできる限り外来語をそのまま表記するという体裁を取っている。昨今の日本は外来語が飛び交っており、街中の看板やブランド名、商品名も横文字のオンパレードだ。その流れからすると、横書きで外来語をそのままの表記で記述するというのは理に適っているといえるだろう。


 しかしこのシリーズの本はどれも極端に横文字を使い過ぎだ。前述した引用部分の


 そしてお客を感動させる touching customer’s heartこと、それがソリューション・オファリングです。


 このように書かれてピンと来る人がどれだけいるだろう。


 そして顧客を心から感動させる提案を行うことが、マーケティングの解決策となるのです。
(コラム筆者沖の意訳)


 これで十分だし、この方が読者の心にスンナリ入って来るのではないだろうか。
本書はこの引用に限らず、やたら滅多らと横文字表記が出て来て、読みにくい。もちろん業界用語のような横文字表記をカッコ良いと思う人もいるので、顧客ターゲットに想定される通勤電車のビジネスマンにこの横文字表記をカッコ良いと思う人が居れば、このシリーズはビジネスマンに強く支持されるだろう。


 本書は新大阪駅の駅中にある本屋で「ロングセラーには訳がある!」として平積みされて大々的にセールスしている。私は東京行きの新幹線の中での読書に本書を買い求め、まんまと書店や光文社のマーケティングのワナにはまった消費者だ。


 この本の新しい体裁は独自路線を行く面白い試みである。確かにビジネスマンをターゲットとしたマーティングとしては上手いアイデアだと思う。本書の内容はオーソドックスなマーケティング理論で、人生論など読み物として面白いところがある。しかしとにかく本書の記述は読みにくいと私は思う。



【オススメ度(辛口)】
花を売らない花売り娘の物語―ハイタッチ・マーケティング論  ★★☆☆☆




次回コラム予告
「偽ブランド狂騒曲 ~なぜ消費者は嘘を買うのか」



【関連サイト】 
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アールモード

掲載日:2007/01/29