沖さんコラム

取材記事


全米No.1のファストフード“IN-N-OUT”はなぜ日本に来ない?~『J.D.パワー 顧客満足のすべて』J.D.パワーⅣ世+クリス・ディノーヴィ著

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●J.D.パワーの知名度が上がった要因


 J.D.パワーが、企業やブランドの顧客満足(CS)調査をしているということは日本でも有名になってきている。数年前まで日本でのJ.D.パワーの名称の知名度はあまり高くなかったと思うが、ここ数年になってよく聞かれるようになった。


 恐らくJ.D.パワーの名前が日本国内で浸透した最大の要因はLEXUS(レクサス)から来るものではないかと思う。2005年8月からレクサスは日本国内での販売を開始したが、それ以前にレクサスは北米で強力なブランドを構築することに成功している。アメリカ人は今もレクサスが世界ナンバーワンのプレミアムブランドだと信じて疑っていない。今も「所詮トヨタの車じゃないか」と日本国内では揶揄されるレクサスだが、アメリカでいかにレクサスが成功しているのかの象徴として言われるのが、アメリカでの高い「顧客満足度」だ。


 昨年こそポルシェに1位の座を譲り渡したが、それまでレクサスは11年連続で米国新車初期品質調査の第1位を堅持し続けていた。レクサスは北米で驚異的な販売実績があるだけでなく、顧客満足としてもダントツの1位を維持し続けたのだ。そのことで、「レクサスブランドは素晴らしい」という印象を逆輸入しようとトヨタは考えたのである。その顧客満足度調査を出すときに「J.D.パワー調べ」というクレジットがつく。このことでJ.D.パワーの知名度は日本で格段にUPしたのではないかと私は思う。


●ブランドはつくることができるか?


 街で「ブランドとは何か?」というアンケートをすれば、「高価格、高品質」というキーワードが上位に来るはずだ。さて突然だが、「ブランドは作るものか、作られるものか」という議論の違いが分かるだろうか。前者の「作るもの」だとするならば、それは企業が恣意的に顧客やマーケットに働きかけた上でブランドは形成できるという考えになる。後者の「作られるもの」だとするならば、その主体は顧客やマーケットにあり、企業の恣意性は薄くなる、もしくは恣意性は否定される。


 この議論でどちらが正しいという結論は無いのだけれど、顧客満足がブランド構築に不可欠であることは間違いない。J.D.パワーが現在のところ顧客満足の“権威”だとするならば本書の中で記述されている顧客満足の指標がブランド構築の基礎になるだろう。
 本書のサブタイトルにこんな記述がされている。


「信頼と品質は顧客が決める」


 どんな書物でもタイトルは内容のエッセンスだ。つまり顧客満足の主体は「顧客」にあるのであり、信頼と品質を企業は最大限に高めることで、結果的に顧客満足度が上がるものになる。


 ブランド構築に顧客満足が絶対条件であるならば、ブランドは「作られるもの」という結論が導かれる。


 本書で顧客満足のリーダーとして紹介されているほとんどの企業は、概して非高級ブランドだ。低価格層で戦っている企業もある。彼らがそのなかで最高の顧客満足を提供している理由は単純だ。トップダウンに始まり、顧客満足が単なるキャッチフレーズではないという意識が企業文化として浸透しているからだ。それが顧客に最も好影響を与えるプロセスに注力することにもつながっている。
(本書180ページより抜粋)


 ブランド構築に高価格や高品質は副次的なもので、十分条件ではないことが分かるだろう。顧客満足の充足には“真実の瞬間”としてエンドユーザーと直に接する従業員の意識と、その意識が発露する企業文化が大切なのだ。


●ハンバーガーチェーン“IN-N-OUT”


 アメリカ・カリフォルニア州に本社を持つファストフードチェーン“IN-N-OUT”(インアンドアウト)をご存知だろうか。そして、実際にこの店のハンバーガーを食べたことがあるだろうか。


 この世に「絶対に儲かる」なんてビジネスは存在しないが、もしこの店を日本に進出することができたら、「絶対に爆発的にヒットする」と私は断言したい。かつてレンタカーでアメリカを旅していた時に、現地に留学する人から「絶対に食べに行った方が良い」と勧められた店がインアンドアウトだった。その時、この店を形容する言葉として使われたのが「アメリカ人が行列をする店」だった。日本はおろか、アメリカにはマクドナルドやバーガーキングをはじめとしてハンバーガー店は数知れず存在する。無理して並ばなくても“Fast Food”できるのだ。しかし一度この店のハンバーガーを食べてみれば分かる。今まで食べていたハンバーガーやポテトは何だったのかと悲しくなるほど、美味い。劇的に美味い。


 この感想が私の個人的な主観ではないことが、J.D.パワーの調査で明らかになっている。米国で行った「外食産業顧客満足度調査」で、インアンドアウトはどのファストフードよりも高いスコアを叩き、ぶっちぎりの1位にランクされた。


 インアンドアウトバーガーの戦略担当副社長、カール・ヴァン・フリートにどうやってこの快挙を成し遂げたのか尋ねてみると、多くの顧客満足のリーダー企業と同じ考えを示した。要はどんな人材を採用するかであり、優秀な人材を獲得するためにお金を惜しまないというのだ。
(本書190ページより抜粋)


 上記の指摘の通り、顧客満足における要素として最も重要なのは「従業員の質」なのである。インアンドアウトが世界展開はおろか、全米各地にも店舗を拡大しない理由は従業員の品質管理が疎かになるからだろう。


 マーケティングにおける「顧客満足」は、商品やサービスを顧客が購入した後の段階である。しかし本書はその時系列の1部ではなく、マーケティング全体が網羅されており、人事採用やESまでも記述されている。企業の経営に必読の書だと断言したい。



【オススメ度(辛口)】
J.D.パワー 顧客満足のすべて  ★★★★★




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掲載日:2007/01/15