

●商品開発を兼ねるマーケティング部署
セールス(営業)部門とマーケティング部門が一緒になっているというのはマーケティングの本義からするとおかしな現象だ。本書の中で記述されているようにマーケティングとは「明日の収穫を夢見る種まき作業」であり、そのまいた種を効果的にセールスに活用していただくというところにマーケティングの意義がある。事業部単位が小さく、事業部間のみでの業績を評価されるのであればマーケとセールスを同時にする部署というのもありえるのだが、本来セールスの前段階にマーケが別事業として機能するべきであろう。
つぎにマーケティングと商品開発、商品企画が一緒になっている企業は多く耳にする。これは問題ないだろうか。企業が新規に事業を始める場合や、新しい商品やサービスを開発するために求められるのは、顧客の“ニーズ”がどこにあるのかということだ。商品開発をする際に製品やサービス自体に目を向けてはならない。なぜならそれは“ウォンツ”であるからだ。顧客のニーズが具現化されたものがウォンツである。売れる商品やサービスの裏側には必ず潜在的なニーズが隠れているものであり、そのニーズを見る目が商品開発には求められる。
そのニーズを明確化した上で、新商品開発を可能にする自社の特別な技術、アイデア、付加価値、つまり“シーズ”を付与して商品を開発する。
「だから通常、企業は自分たちがすでに持っている技術的なノウハウ、シーズをもとにして、なんとかそれを生かした新商品が作れないか、というふうに考えるわけだ。こういう考え方、やり方を、先ほどの『ニーズ志向』に比べて、『シーズ志向』という」
(本書43ページより抜粋)
商品を開発する際に、顧客の「食べたい」というニーズにシーズというスパイスを付けて料理(ウォンツ)を提供するという考えは、マーケティングそのものだ。だから、商品企画部とマーケティング部が一緒になっているのはむしろ理に適っているといえる。
●マイオピアの警告と集中化は両立できるか?
かつては繁栄を誇ったアメリカの鉄道事業(AMTRAK)が現代では見るも無惨な死に体になってしまった理由を、「自分たちは鉄道会社だ」という思い込みによって幅広い事業にのりだせなかったからだとする意見はよく聞かれる。
「彼らは、自分たちの企業ドメインを、鉄道事業という極めて幅の狭いものに設定してしまったのだよ。だから、鉄道以外のことをやろうという発想自体が生まれなかった。
このように、自社の企業ドメインを必要以上に狭く定義してしまう失敗のことを『マーケティング・マイオピア(近視眼)』というだ」
(本書78ページより抜粋)
しかし経営で最も重要なのは「選択と集中」というのはよく聞かれる話ではないか。
「乏しい経営資源を一点に集中させるんだ。細かく分割された市場全体のうち、一つのセグメントだけに狙いを絞って、そこに製品を投入するんだよ。さっきの例でいえば、『うちはもうカレーしか作りません』といってメニューをカレーだけにしてしまうようなものだ。こういうやり方を、『集中化マーケティング』と呼んでいる」
(本書95ページより抜粋)
この2つの意見は一見すると矛盾するように見える。しかしこの2つは相反する意見では無い。もうお分かりだと思うが、顧客のニーズがどこにあるのかが分かれ目ということだ。鉄道事業にニーズがあり続ければ、鉄道事業1本に集中すれば良いのだし、鉄道の衰退期が来ることが予見でき、自社のドメインを違う事業に拡大(転用)できるという仮説があるならば拡大すれば良いのである。
●自分のマーケティング力に自信を持たせる書
多くの例題をカレーにまつわる話として取り上げられているので、本書はとても面白く、そして分かり易く書かれている。表紙に吹き出しで書かれている「もっともわかりやすい」は決して美辞麗句ではなく、本当に分かり安い良書と言えるだろう。そしてタイトルにズバリ書かれているように本書はあくまでもマーケティングの「入門」だ。
このコラムを読むようなマーケティングに関心のある人、もしくはマーケティングのプロフェッショナルが本書を読むと、この中で記述されているフレームワークやケースはどこかで聞いたことのあるもの、もしくは「知らなくてもそれくらいの分析はできる」というものばかりだ。しかし、だからこそ本書のような本は今一度読んでみた方が良い。何事においても基本は大切なように、本書のような入門書を読むと、「ああ、こういう分析もあったな」と再確認してくれる。そして何より大切なことは、自分のマーケティング力はもはや初心者レベルでは無いのだということだ。
あなたがどんなビジネスキャリアを歩んできたのか、何年のビジネス経験があるのかは分からないが、いずれにせよ元々は初心者だったのである。
思い出してみよう。当初はSWOTも、4P,バリューチェーン、ファイブ・フォースも何もかも知らなかったはずだ。これらのフレームワークと呼ばれる分析手法を知っていたからと言って、偉いわけでもないし、逆に知らない人にマーケティング力が無いということも言えない。しかし、これらの分析手法を知っていることで企業や商品の“穴”が見つけ易くなることは確かではないだろうか。
あなたは既に初心者では無い。入門書を今一度再読してみることで、自分のマーケティング力に自信を持っていただきたい。
【オススメ度(辛口)】
「国民食」カレーで学ぶ もっともわかりやすいマーケティング入門 ★★★☆☆
次回コラム予告
「おまけより割引してほしい」
【関連サイト】
沖 広一郎 ブログ
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