沖さんコラム

取材記事


アサヒ「若武者」への企画提案ができるか?~『なぜ、伊右衛門は売れたのか。』峰 如之介著

4883994449.01._SS500_SCLZZZZZZZ_V54494341_.jpg

●サントリーの商品開発力、とりわけマーケティング力


 「大学生の就職したい企業ランキング」というものがある。そのランキングで上位に常に位置しているのが、サントリーだ。日経新聞の調べでは2005年、2006年度と連続で第1位の名誉(?)に輝いている。「サントリーのどこがそんなに良い企業なのか?」とコケ落としたいところだが、どうやら聞くところによると下馬評通りにサントリーは結構良い企業らしい。その「良い企業」の基準は、社員が自由にノビノビと仕事ができる社風が企業に存在していることによるもので、大企業にしては珍しい社風であるといえる。


 サントリーという企業の強みは、商品開発力にある。とりわけ「売れる商品の仕組み作り」というマーケティング力の強みは有名だ。本書は『なぜ、伊右衛門は売れたのか。』というタイトルを付けているが、本書で記述されているのは「サントリーの商品企画力」の素晴らしさである。「伊右衛門」という商品は、そのケースとして挙げられているだけで、この本で書きたいことは、「サントリーという企業がどれだけ深い懐を持っているか」だ。


●伊右衛門はなぜ消費者にウケたのか?


①本格嗜好
(ア)国産茶葉100%、無香料、無着色…急須で入れた味わい
②老舗ブランドとのコラボレーション
(ア)200有余念に渡る「福寿園」との提携
(イ)「伊右衛門」…福寿園の創業者、福井伊右衛門からのネーミング
(ウ)作り手の“顔”が見えるような商品企画
③パッケージデザイン
(ア)江戸時代の人が茶の携帯に竹筒を用いたのをヒントにした“竹筒ボトルデザイン”
④サントリーの社風
(ア)失敗を恐れずに、挑戦を鼓舞する企業風土


 本書では大まかに分けてこれらのことが記述されている。「伊右衛門」のような商品を開発できた要因は特に最後のサントリーの企業風土とチーム制の商品開発体制というものだろう。


 「商品を開発するときには、大きく分けて二つのポイントが存在します。一つはどうしたらヒットの精度を高める開発を実行できるか、もう一つはどうしたらスピードのある開発を実現するか、です。この精度とスピードの両方を満たす方法論として、チーム開発は非常に有効に機能します。コンセプトワークから開発、広告販売に至る商品誕生までのプロセスを、チームメンバー全員が共有することで開発スピードにドライブがかかり、メンバーの衆知を集めることで開発クオリティが練り上げられ、ヒットの精度が高まっていくのです」
(本書51ページより・サントリー斉藤社員のコメントを抜粋)


●アサヒの「若武者」がサントリー「伊右衛門」に勝てないこと


 「伊右衛門」のヒット要因は老舗ブランドの福寿園とコラボできたことによるところが大きい。緑茶飲料で確実なシェアを維持し続ける「お~いお茶」が人気なのは伊藤園という看板が付いていることで、消費者が“本物の中のホンモノ”をイメージするからだろう。


 ビールと同じく、緑茶飲料でブランド名を隠して味覚だけで評価する「ブラインドテスト」をして「伊右衛門」を選出できる消費者はほとんどいないだろう。特に、「伊右衛門」とアサヒ「若武者」のスッキリ感はとてもよく似ている。「伊右衛門」が大ヒットした理由が前述の4点だとすると、アサヒはどうすれば「若武者」をヒット商品に押し上げることができるだろうか。


 「若武者」も「伊右衛門」と同じく「国産茶葉100%」であり、「二段仕込製法」という本格的な緑茶抽出方法を取り入れている。さらには静岡県川根を代表する煎茶専業農家 「丹野園」と提携し、“第57回全国茶品評会優勝”という輝かしい実績を持つ丹野浩之氏が茶葉をこだわったものだ。伊右衛門と若武者のどちらが「作り手の顔」が見えるかと言えば、「若武者」の方である。では、「若武者」なんてネーミングは止めて、丹野氏の曽祖父であり、手揉み茶流派「川根揉切流」の創始者である中村光四郎から「光四郎」というネーミングに変えればヒットするだろうか。もしくは「丹野園」という煎茶専業農家のブランドを付けたら良いだろうか。さらにはパッケージデザインも川根茶の雰囲気を最大限アピールするような“一工夫したもの”に変え、アサヒの社風をサントリー以上に失敗を恐れずにチャレンジするものにできたとするとアサヒから大ヒットの緑茶飲料が登場するのか。


 「なぜ、伊右衛門は売れたのか。」とタイトルに書くならば、他の緑茶ブランドがしていないことが書かれていなければならない。本書で書かれている内容は間違ってはいないが、読まなくても分かることばかりである。本書では他の緑茶ブランドとの比較検討が全くなく、専らサントリー内部のことばかりである。多くの読者が感じるのは「サントリーは良い会社だなぁ」というものであり、「なぜ、伊右衛門は売れたのか」ではないだろう。


 コカ・コーラの「一」が緑茶飲料で上位のシェアに入るのは、自動販売機の数が国内で飛びぬけた数あるためで、商品力以上に販路に強みを持っているからだ。アサヒがサントリーに勝てないのは、企業の規模と、それに応じた開発費と広告にかけるコストである。


 「開発費と広告費が無ければメジャーに勝てない」などということは、貴方がマーケッターであるならば絶対に言ってはならぬ禁句である。しかし本書には商品企画の本質が描かれていない。本書はサントリー礼賛なので就職活動の学部生が読むには優れた書籍である。


次回コラム予告
『風に吹かれて豆腐屋ジョニー』伊藤信吾著


【オススメ度(辛口)】
なぜ、伊右衛門は売れたのか。  ★★☆☆☆




【関連サイト】 
沖 広一郎 ブログ
株式会社セノビー

掲載日:2006/11/20