沖さんコラム

取材記事


トマト銀行は絶妙のネーミングなのか?~『すべてはネーミング』岩永嘉弘著

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●消費者が購入の際の要素


 顧客が商品やサービスを購入、選別する際の要素は価格、品質、デザイン、評判、立地、セールスマンなどさまざまである。もちろん価格一辺倒でどんなセールスポイントよりも低価格でなければ購入しないという人もいれば、デザインが優れていることを最重要ポイントとしていて価格はさほど重要視しないという人もいる。しかし多くの人はその要素が複雑に絡み合い、その中で特に外せない要素というものをそれぞれに持っている。


 優れた製品やサービスを顧客に伝達する上でネーミングという要素はとても重要だ。しかし「すべてはネーミング」と言い切ることはできるだろうか。


●「トマト銀行」は優れたネーミング?


 本書は商品やサービス、そして社名のネーミングの本であるから、ネーミングにまつわるさまざまな事例が登場する。その中で「形容が絶妙」とされる企業名として岡山の「トマト銀行」のネーミングが挙げられている。


 このトマト銀行の誕生までは、外資系以外はカタカナネーミングの銀行なんて存在しませんでした。その後、バブルの崩壊を経て、金融界は再編成で慌しく、柔らかい名前の銀行も続々生まれています。しかし先駆けである「トマト銀行」ほどの優れモノは、残念ながら出てきていないようです。
(本書88ページより抜粋)


 このようにトマト銀行のネーミングを著者は絶賛している。このネーミングのポイントは、トマトは栄養価が高く生命力の強い食品で、世界のほとんどで通用する言葉だということらしい。「農協じゃあるまいし」という反対意見もあったようだが、このようなインパクトのあるネーミングをつけることで“健全な危機感”を社内に生み出すことに成功していると評価している。


 トマト銀行のネーミングは本書の中で取り上げられているほんの一例だ。この一例を取り上げて本書のネーミング理論を全否定するのは良くないことは重々承知しているが、それでも私にはトマト銀行のネーミングのどこが良いのかさっぱり分からない。コレが優れたネーミングならば「牛乳銀行」や「イワシ銀行」でも良いではないか。そして岡山の地銀が「世界のほとんどで通用する」ネーミングをする意味がよく分からない。何よりただ単純にインパクトのあるネーミングをするだけで“健全な危機感”を生み出すことができるという論理が希薄過ぎると私には感じられた。「トマト銀行」というネーミングは確かにインパクトと話題性はあった。しかしこのネーミングに変更したことで業績が分かり易く上昇していなければ優れたネーミングと評価することはできない。


●「コレは優れたネーミングだ」と判断されるとは?


 消費者がプロダクトやサービスを購入する際に重視するポイントはさまざまで、1つのポイントだけで判断するということは普通ありえない。「すべてはネーミング」というタイトルを付けるからには「優れたネーミングさえつければ絶対に顧客は買ってくれる」という論理が立たなければならない。私はこの論理が成り立つための方法は1つしか無いのではないかと思う。


「価格、製品内容、デザインを全く変更せずにネーミングを変えただけでバカ売れした」


 こんな例をたくさん提示し、その中で法則を生み出し体系化したというならば「ガッテン、ガッテン」と私はボタンを押すことだろう。このようなネーミングを変えただけで売上が急上昇した例として有名なのはレナウンの「通勤快足」という靴下だ。以前は「フレッシュライフ」という名前だったものを「通勤快足」というネーミングにしただけで売上が9,000万円から8億円にUPしたという。このような例示をたくさん出してくれたなら「すべてはネーミング」と読者は感じることができるだろう。


●取り上げて欲しいネーミング


 明治乳業の「おいしい牛乳」や、カゴメの「野菜一日これ一本」というネーミングもありきたりな製品(コモディティー)を売るために分かり易いネーミングが消費者の心に響くのだということを教えてくれる。


 ネーミングとデザインや、CIはかなりの部分重なっているので一概にネーミングだけで構築される製品特性を論じることはとても難しい。しかし少なくとも私には本書は優れたネーミングのケースがあまり記述されていないように思う。


 本書に限らず本のタイトルなんて大げさに記述するものだし、何より“ネーミング”で顧客の目に留まらなければ始まらない。しかしそのネーミングで購入した消費者が、実際にはそのネーミングに合致しない製品内容であった場合果たしてインパクトのあるネーミングは「優れたネーミング」と評価することができるだろうか。


 確かにネーミングはマーケティングをする上で重要でありその短い言葉に製品特性を瞬時に伝えることができるかは売上に大きく作用する。しかし決してネーミングは“すべて”ではない。数あるマーケティングの要素の1つに過ぎず、何より優れたネーミングよりも、優れた製品やサービスが第一であると私は言いたい。




次回コラム予告
『最初のデートでプロポーズ!?』ビル・ビショップ著


【オススメ度(辛口)】
すべてはネーミング  ★★☆☆☆




【関連サイト】 
沖 広一郎 ブログ
株式会社セノビー

掲載日:2006/10/23