

●本書を示す第三のタイトル
本書の原題は“How to sell a Lobster”であり直訳すれば「ロブスターの売り方」となる。本書の邦題『最初のデートでプロポーズ!?』は本書の中で示されるマーケティングのポイントの1つに過ぎない。「ロブスターの売り方」もその内の1つに過ぎないのだが、原題と邦題であれば、日本でのタイトルの方がマーケティングの消費者心理として優れていると思う。
本屋にはゴマンと本が並べられている。本のタイトルを付ける場合、「どんなことが書かれているのだろう?」と消費者が手に取ってもらえるようなインパクトのあるタイトルが必要だ。インパクトのあるタイトルはアイキャッチの働きが主であるので本の帯にその内容が簡潔に示されるような説明書きや、著名人の推薦文などが記載されることが多い。本書は今流行りの大きな帯が付けられこんな文章が書かれている。
問題は君たちが、売ることにがむしゃらになりすぎているということだ……
この帯説明も「何が書かれているのだろう」という消費者の喚起を促す文章であり、実際の内容は分かりにくい。しかしその下に一回り小さなフォントで記述されている第三のタイトルがある。
ビジネススクールでは、決して教えてくれない、相手の心をがっちりつかむテクニック!
これが本書の内容を簡潔に指し示す文章である。さて、本書の内容はビジネススクール(MBA)では教えてくれないものだろうか、そしてビジネススクールで学ぶマーケティングとはいかなるものだろうか。
●ビジネススクール(MBA)で教えてくれないマーケティング
MBAと聞くとビジネスや経営のスペシャリストというイメージがして、公認会計士や税理士のような“資格”だと考えている人は多い。しかしMBAとは“Master of Business Administration”の略であり日本語に訳せば「経営学修士」なのだ。つまり基本的に経営学の大学院を卒業したというだけに過ぎず、たとえば医学部を修了した学士の後に「医師免許」の資格試験がある訳ではない。
しかし経営学の大学院の卒業には会計、ファイナンス、財務、戦略、統計などの経営のスペシャリストという肩書きに恥じない知識や能力は必要とされる。その分野の1つにマーケティングという分野が存在する。
いきなりぶっちゃけたことを言うと、MBAで学ぶ学問とは“結果論”だ。すべてでは無いがほとんどは既に起こったケースを分析し、「あーだから売れた、こーだから売れなかった」と判断しているに過ぎない。もちろん未来や、未体験のビジネスに戦略を組む上で過去のケースから成功する可能性の高い方法論を提示することはビジネスの必要条件ではあるだろう。しかしMBAでは現在に起こっている企業の問題や、販売の芳しくない商品をどうすれば売れるようになるのかを教えてくれるものでは無い。例えばフォードやライブドアの再建はどうするべきか、ソニーのPS3をどうすればバカ売れするか?なんてことを教えてくれるところでは決してない。つまり多くのMBAフォルダーは分析やダメ出し(批判)をすることは出来ても代替案や絶対に正しい改革案を提示することはできない。
しかし本書で示されている「17の売れる魔法」は「こうすれば売れる」という提示が示されている。その魔法(提示)が正しいか正しく無いかは別にして、本書がビジネススクールでは決して教えてくれないテクニックを示しているという主張は間違ってはいない。
●時には最初のデートで居酒屋に行き、その場でプロポーズせよ
さて、みなさんの営業方法を振り返ってみてください。取引相手を居酒屋へ誘ってはいませんか?ちゃんと街で最高のレストランに招待していますか?最初のデートで指輪を差し出して、プロポーズしていないでしょうね?強引すぎると、嫌われますよ。
(本書209ページより抜粋)
あくまでもセールスの一例なのだが、本書で示される「最初のデートでプロポーズするな」の理論は、ゆっくりと焦らずに顧客やクライアントと信頼関係を築けということだ。
この例に限らず恋愛とマーケティングは同じだとよく言われる。恋愛やマーケの絶対的な鉄則は「押すと相手は逃げていく」である。客も彼女も押せば押すほど引いていくと考えて間違い無いだろう。しかし商品は売れて欲しいし、彼女とデートしたいのが本音だ。だからついつい強引になってしまうし、チャンスは逃したく無いと焦ってしまう。だから最初のデートで婚約指輪を出すような愚行をセールスマンはしてしまうのだ。
しかしこのケースでダメなところは強引なところであり、プロポーズするところではない。ビジネスにおける法則として“Time is Money”というのがある。多くの商売においてスピードは正確性よりも上位に来る人気アイテムだ。最初のデート(商談)で婚約指輪を出し、自分が望む家庭像を説明し、自分と一緒になるとこんなに楽しいことがあるよと提示して「それでも良かったら結婚しませんか?」と打診されて落ちる女性だっている。この戦略が絶対に上手くいくと言うつもりは無いが、じっくりと時間をかければ絶対に上手く行くという保証もない。最初の商談で自分の持ち駒の全てをさらけ出し、上手く行くか行かないかをその場で判断して、上手く行かないなら次のクライアント(女性)に行くスピード力は時に必要だ。著者は最初のデートは居酒屋では無く、街で最高のレストランに招待せよとアドバイスしているが、庶民的なレストランの方が上手く行くデートもあるし、下手に金をかけた商談の場が裏目に働くビジネスだって存在する。
本書のタイトルになっている16番目の魔法を少しばかり批判したが、本書で提示されているマーケの手法は納得できるものが多い。英題のタイトルになっている「ロブスターの売り方」では、“スペシャル”としてひとまとめにされて提供されると消費者は注文し易くなるというものだ。その他に「映画館でなぜ“スーパーサイズ”という特大のドリンクが発売されているのか?」、「パンフレットは作ってはいけない」、「グルメ料理店になれ」などの著者の主張は納得できる。
本書は簡単に読めて、いろいろなビジネスの解決法が示されている良書である。
次回コラム予告
『顧客は追いかけるな!』ジャン・ストリンガー&ステーシー・ホール著
【オススメ度(辛口)】
最初のデートでプロポーズ!? ★★★★☆
【関連サイト】
沖 広一郎 ブログ
株式会社セノビー