沖さんコラム

取材記事


Windowsビスタを発売日に買う人=Innovators ~『キャズム』ジェフリー・ムーア著

●キャズムとイノベーター理論


 Chasm(キャズム)は日本語では「割れ目」と訳され、登山をする際に向こう側に行けないクラック(裂け目・溝)と表現すれば分かり易いだろう。


 ムーア氏の「キャズム」とロジャーズ教授による「イノベーター理論」はとても近い考え方だ。新商品を市場に投入すればすぐに飛びつく「イノベーター」、その後に追随する「アーリー・アドプター」と消費者は分類され、市場を占有するためにこの16%の普及率がとても大切というのがロジャーズ教授による「イノベーター理論」である。対して「キャズム」は「アーリー・マジョリティー」に移行するために大きな“裂け目”があると考えられ、製品の普及にはこの壁にぶち当たり、容易に「アーリー・マジョリティー」に移れるわけではない。このキャズムを乗り越えるかどうかがマーケットの分岐点という考え方だ。



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 ここで成否の分かれ目となるのはただ一点。キャズムを越えられるかどうかである。これはハイテク企業にとって、まさに生死の分かれ目であり、「キャズム理論」が支配する厳しい試練を課せられる。
(本書7ページより抜粋)


 本書で語られるハイテク市場は“B2B市場”であり、エンドユーザーよりもクライアントの心を掴み、そしてロックオンさせるための方策が書かれている。“B2C”や販売が行き詰った場合にもこのキャズム理論を当てはめることは可能であるが、それでもやはり「ハイテク製品」に特化したマーケティング理論であると考えるべきだ。


●高性能≠メインストリートへの道


 新しく、高性能なハイテク製品を市場に投入しても“クリティカルマス”を取ることなく市場から撤退した製品や技術は日本にも数多く存在する。


 1980年にパイオニアが製品化した「レーザーディスク」や、VHSに歴史的な惨敗をしたソニーの「ベータマックス」。これらの技術は当時としてはかなり優れたいたのに敗北した。
 音声をデジタル化して磁気テープに記録する「DAT」はプロの世界では圧倒的な支持が得られたにも関わらず大衆には普及しなかった。


 PCのOS(オペレーティングシステム)として評価の高い「リナックス」は、今もなおマイクソロフトのWindowsより優れていると評価されている。今現在も高い評価を受けていながらリナックスを使っているユーザーは圧倒的に少ない。


 ゲーム機器メーカーのセガは競合ソニーの研究に研究を重ね「ドリームキャスト」と発売した。PS(プレイステーション)よりも優れた技術を付加したハードを発売したにも関わらず「ドリームキャスト」はどうしてPSに勝てなかったのだろうか。


●セグメントを支配せよ


 普通に考えればライバルよりも高性能・高品質であればマーケットの圧倒的な支持が得られるはずだ。上記に挙げたこれらのプロダクトは製品としては優れていた、それにも関わらずマーケティングに敗北した。その敗北した理由は団体の反対であったり、ソフトが追いついてこなかったり、価格が高すぎたりと様々である。しかしひと括りにこれらの製品は「キャズムを乗り越えられなかった」のだ。「一時的な流行」や一部の利用者だけが認めた「何かすごい機能」ということだけで終わり、マーケットのメインストリートに出ることはできずに終わった。


 キャズムと越えようとするときには、ホールプロダクトによる梃子の原理、口コミの効果、そしてマーケットにおけるリーダーシップを実現するために、ひとつかふたつのマーケット・セグメントに絞り込み、そのセグメントを支配する、ということが必要不可欠となる。
(本書111ページより抜粋)


 本書は1991年に初版がアメリカで発表された。それから15年経っているが本書の中で描かれているマーケティング理論は今も有効であり新鮮だ。


 本書はスタンフォード大学MBAを始めとして、多くのビジネススクールで参考図書に指定されるもので、マーケティングの世界においては“古典”と言われるほどの名著である。「キャズム理論」を支持するかしないか以前にこの本を未読というのはもし貴方がマーケッターであるならば恥ずかしい思いをどこかですることだろう。もし貴方がハイテク産業、もしくはそれに順ずる業種であるならば本書は必読の書である。しかし、本書で記述されている理論は「ハイテク製品」に特化したものだ。ローテクでアナログな製品やサービスではそもそもイノベーター理論のように消費者がセグメント化されるとは限らない。必読の書は取りも直さず読まないことには始まらない。


さて貴方のビジネスでキャズム理論は有効だろうか。


次回コラム予告
『身近なセレブでブームをつくる!姫様商売』



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【オススメ度(辛口)】
キャズム  ★★★☆☆




【関連サイト】 
沖 広一郎 ブログ
株式会社セノビー

掲載日:2006/09/18